今回は、久しぶりに経済の話をしたいと思います。
先日のBloombergから。米自動車部品製造メーカー大手の「ファースト・ブランズ・グループ」が約100億ドル(1兆5200億円)の負債を残したまま経営破綻しました。
この記事で興味深いのは、企業の査定額が通常だと「10%から20%」の評価しかないのに、その体質の企業に各銀行が甘い査定を行い、莫大な融資をしてしまったことです。
今回辞任したジェームズ元CEOは、「経歴がインターネットで見つからない」らしく、どうも素性が相当怪しい人物が会社を仕切っていたようです。
銀行の査定が甘すぎて本来融資するべきでない企業に莫大な資金を預けてしまった、という腐敗した米金融業界の実態が垣間見えるニュースです。
自動車サブプライムローン融資を行うトライカラーの破綻も含めて、銀行業界へのダメージは看過できないレベルであるのは間違いないでしょう。
現在、最高潮のS&P500の中で、銀行と不動産のトピックは超低調の分野で、実のところ危険信号が出ているのはバブルの張本人たるハイテク銘柄ではなく、これらの企業群です。
今の不動産業界は殆ど虫の息であり、その分野に主な投資を行っている銀行各社は融資の焦げつきに喘いでいます。
また、銀行保有の有価証券の含み損が高金利によって年々肥大化しており、ただでさえ経営基盤が脆弱な銀行各社は、企業の破綻を被って経営不振に陥る機関がこれからボツボツ出てくるはずです。
第二次ハイテクバブルは、FRBがマネーサプライ供給をやめるか、NVIDIA関連の循環取引が公表されたら一瞬で終わります。
NVIDIAの架空取引に関しては「大本営発表」がないだけで、状況証拠は出揃っています。
ただ市場が「事実を認めたがらない」ので、仮に織り込んでいたとしても、落とし所がないのが正直なところではないでしょうか。
おそらく、機関投資家や大富豪などは「バブル崩壊」に備えており、大暴落のダメージを個人投資家に転嫁させる代わりに、絶妙なタイミングで売り抜く腹づもりでしょう。
そして「米国崩壊」後の修羅の時代をどう生き抜くかの戦略を立てているのだと思います。
それだけの資金があれば外国に高跳びもできるでしょうし、私設軍隊も持てる規模の資産がありますから、自前の「国家樹立」も選択肢にあるのではないでしょうか。
これから起こる経済破綻の主幹は金融と不動産になるでしょうが、世間的にはハイテク大手の不正がセンセーショナルな話題になるため、世論の追及を免れることもあるはずです。
私はそこまで計算しての「第二次ハイテクバブル」だと思っているので、そうであれば金持ちの考え方はさすがと感心してしまいます。
おそらく米国経済崩壊後の世界情勢は、思ったほど牧歌的ではないでしょう。
著しく劣化したとは言え、大規模の軍事力と軍事企業を保持する各国が政府の統治から逸脱した時に、どういう行動を起こすかは未知数です。
それこそ1929年の米国株大暴落後の1930年代には「都合良く」第二次世界大戦が起こったことで、戦時需要をブル相場に転換させて米国経済は立ち直ったという前例があります。
むしろ、金融危機を背景とした「戦時ブル相場」を想定して近年の戦争が起きていた可能性もあり、私は全く気が抜けない状況は続くと思います。
しかし、国民経済が劣悪で政府に権威としての求心力が低下した環境下では、「戦争」という国家事業を成し遂げることは不可能でしょう。
ゆえに、軍事企業が「儲けよう」とするなら対外戦争ではない、ということです。
私は「庶民」の味方なので不吉なことは言いたくないのですが、それは国民一人ひとりが意を決することで巨大権力の暴走を止めることはできるはずです。
それには勇気と知恵が必要ですが、見える地雷を敢えて踏みに行くことはないでしょう。
私たち日本人も、宗主国たる「アメリカ合衆国」が権威を失う時、その国家に臣従する体制であったことを見直すタイミングは来るはずです。
基軸通貨「ドル」の凋落は、世界経済だけでなく自国通貨である「円」の取り回しにも課題を生じさせると思います。
現在、米国中央銀行が発行する「ドル」は連邦準備制度FRBのコントロールを離れ、「ユーロダラー」と呼ばれる米国に還流しない「外国のドル」が金利を始め市場価値をコントロールしています。
そのユーロダラーも為替を通して外国通貨になるわけですから、その莫大な流動性はドルが凋落しても循環を続けることになるはずです。
これまでの市場経済は、AI開発やEV、再生可能エネルギーのように政府が主軸になった「国際的トレンド」に群がる形でジャブジャブ公金が投入され、ブームに合わせることで経済的なカンフル剤にしてきたわけです。
ただ、こうした「グローバリズム」に基づいて人工的に作り出した需要は、必ずしも経済的な合理性を伴うものではありませんでした。
そしてそのスキームも、米国経済崩壊と共に潰えるでしょう。
そうなれば、世界中を循環する莫大な「ユーロダラー」は、より大きな投資先を求める反面、投機に値する「真の技術革新」を待ち続けることになるはずです。
ただ肝心の「真の技術革新」が当面起こらなければ、ずっと小資本の投資先から地味な配当を得るような投資に傾いていくと思います。
そもそも、これまでの世界経済の中心だった「資本主義」というのは、元手を極力かけずに最大の利得を得るというポリシーがあり、「何も知らない」「まだ持っていない」という消費者を探し出すか無理に作り出すかして、モノを買ってもらうというスキームだったわけです。
それは「焼畑農業」のようなもので、モノが末端まで行き渡ればいずれ右肩下がりになる手法です。
現代社会を作り上げた製造業は特に、「モノからコトへ」という経済的トレンドの転換を逆転させるために、あれこれ工作をしてきたように見えます。
しかし、サービス業主導型経済になるのは文明として必然的な流れであり、いずれはそうなるのを止めることはできません。
私はこれからの「経済」について考える時、やはり20世紀型の大量消費経済は終焉を迎えざるを得ないと思います。
ただ、所得を得るためなら何でもやるような「お金」中心の時代が終わると言っても、「お金」自体が無くなるとは考えられません。
あくまで、行動や判断の軸が「お金」ではない社会になっていくというだけです。
ただ、それでは各自が好きなことだけやっていても世の中は回らないでしょうし、ゆえに「お金は必要」という考え方も、しばらくは変わらないと思います。
かつて、「株式会社」というのは私掠船などを保有する海賊が国王から勅許状を受けたり、航海の資金を捻出する際の投融資を受けるために組織されたことから始まります。
そして一回の航海できちんと海賊行為を成功させて、うまく掠奪したり貿易品を輸入できれば利益を支援者と船の乗組員に分配し、事業が終わったら即刻解散する性質のものでした。
海賊に起源を持つ株式会社の制度は「侵略性」の点で資本主義と非常に相性が良く、そのため今日の市場経済は「収奪経済」的な側面が強いのです。
大航海時代はヨーロッパを離れた人々が現地の財宝や資源を掠奪し、それを交易することで栄えました。
そして、収奪というのは「取れるものがなくなったら終わる」という性質があります。
ゆえに、資本主義経済は「買い手」がいなくなった時点で終わるのが仕様です。
しかし、今日では社会制度が整い終身雇用なども既成事実化したため、雇用後の補償も加味してすぐにビジネスを辞めたり、会社を解散させることは殆どありません。
だから企業としては一度末端までサービスを行き渡らせて、すでに需要がなくなったような市場にも販路を求め、業界にしがみつく必要があります。
しかし「買い手」は年々減少していくし需要は変化していくのですから、ずっと同じことはできません。
結局、こういった仕組みを続けようとしてきたからこそ経済は形骸化し、形骸化した市場が社会の空洞化に繋がっていったのではないでしょうか。
だから見直すべきはこれらの「稼ぎ方」であり、市場が変化していくことをまず素直に認めることだと思います。
ゆえにこれからの経済トレンドは、小資本の企業が相応の投融資を受けて商売をし、一度立ち上げた「会社」も事業の主目的を達成すれば、すぐに株主への利益分配を完了させて解散するような、「プロジェクト型」の同人・結社系企業が主流になっていくと思います。
もちろん、ビジネスは「ローリスク」ではローリターンしか得ることはできないので、ハイリスクを極力ローにするには、実直に合理的にシステムを組み上げて、ある程度予測がついたら大人しく引き上げる、という一撃離脱のやり方にならざるを得ません。
しかし、これまでの社会はビジネスの仕組み上、あまり合理的とは言えない体質だったと言えます。
それが見直され、余分なリスクやコストを極力抑えようとすれば、あらゆる物事は「分散型」になっていくはずです。
おそらく、「一極集中」の寡占企業がもたらす弊害の教訓がここに活かされ、中小の企業体が経済のトレンドを作り出していく時代になるのではないかと私は見ています。
その業態において、一つの商売を何十年も続けて業界寡占を狙うようなビジネスより、同じ目的で集まった様々な業態の人々が起こす、ニッチな小規模のビジネスが隆盛する時代になるのではないでしょうか。
それには「プロジェクト」で集まって、実現したら解散するタイプの同人企業は、分散型の時代に適したビジネスモデルになっていくと考えられます。
このように新しい流れが起こるのも「世界経済の崩壊」を伴うから生じることで、決して悪いことばかりではなく、「経済」のあり方をリセットし「資本」のあり方を見直すためには好機なのです。
逆にこのタイミングで前体制に回帰するようであれば、混乱はより深刻になり、古いやり方に固執すれば、ますます袋小路に入っていくはずです。
水は高い所から低い所へ流れますが、これを莫大なコストを使って逆流させようとしてきたのが近年の資本主義文明圏です。
それがもはや成り立たないのなら、いっそのこと高い所から流れる水を受ければ良いだけです。
その状況に気づけるか気づけないかが、これからの大きな分かれ道になる予感がします。
だから、頭を切り替えるのが早い人から成功を手にしていく時が来ているのかもしれません。
