AIの時代は来ない。

楽太郎です。

最近、本ブログでは「反米」的な言説が多くなっていますが、我が国が終戦から80年という節目を迎え、欧米の文明的衰退と混乱を目の当たりにしながら、日に日に行き詰まりを感じる私たちが「このままで良いのだろうか?」と考える風潮を持ち始めているのも、何となく反映しているのかもしれません。

当のアメリカは中国に尻尾を振りながらロシアを支援するインドを牽制し、EUに喧嘩を売りながら韓国は見捨て、イスラエルを無償支援しながらウクライナに譲歩を迫るという意味のわからない不確実性を撒き散らしています。
俯瞰してみるとアメリカは「第三の社会主義帝国」という振る舞いを隠そうとしていないようにも見えます。
私は中国もロシアも実はアメリカとは対立しておらず、構造的に同根なのではないかと以前から仮説を立てていたのですが、まさか目に見える形になって出てくるとは思いませんでした。

本日付のBloombergに、政権ベタ寄りの提灯記事ばかりの同社のコンテンツの中で、珍しく骨太のコラムが掲載されました。

トランプ氏が突き進む米経済自滅の道 | Bloomberg

「このコラムの内容は、必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません」と但し書きがあるあたり、「編集としては内心こう思っているけど、さすがに社の本音と言う訳にはいかない」という口惜しさが滲み出ているように感じます。
ただ申し訳ないですが、AIの規制緩和やイノベーションの推進は、債務超過の危機にある米国政府がハイテクバブルを利用して外国から投資を呼び込むための方便であり、トランプ大統領の方針を総括すると360°悪手です。

今の新聞業界は、日本でも凋落が激しいですがアメリカも例外ではなく、この30年で新聞社の人員が4分の1になったというデータがあります。
確かに、ネットニュースさえあれば紙の新聞は翌日になれば「新聞紙」として使う以外の用途がなくなり、経済効率的に良いとは言えません。
この業界も人員不足で取材なども踏み込んで行わず、またファクトチェックする余裕もないのでしょう。

ネットニュースはサブスクなどを展開していますが、マイクロペイメントにすればもっと記事単価の収益は上がるのに、全体的に高価格帯のサブスクを一般化しようとするため、ニュースに高い月額を払える比較的裕福な層と、無料の粗雑なネットニュースを見るだけの貧困的一般層の間に情報格差が起きていると言われます。

これが俗に言う「ペイウォール」という情報障壁で、優良かつ正確性の高い情報は高額サブスクが払える層は享受しやすいですが、朝食のメニューすら変えることもままならない人々は、無料で手に入る多くの偽情報や扇情的なデマを含む劣悪な情報ばかりを取得してしまう傾向にあります。
客観的なデータや観測に基づく情報に触れている人々はそのデマゴーグを見抜けますが、情報弱者はその情報リソースにアクセスする手段が物理的に限られているため、両者の意思疎通や情報共有は必然的に難しくなります。

私は、この情報格差がアメリカならず我が国に蔓延する社会的分断に繋がっているのではないかと考えています。
少なくとも世の中を俯瞰的に見るためには、リソースのある情報に接する必要がありますが、元々エビデンスのある情報とデマゴーグの区別がつかないような情報弱者は、その情報価値に気づくことすらできません。

私はこれはかなり由々しき問題で、良質な情報に触れる機会の多い人が成功したり出世するのは当たり前で、情報格差は労働環境や経済的な格差にも繋がっているのではないかと思います。

さて、今回の話題はそこではなくて、同Bloombergの本日配信の記事がツッコミ所満載だったので、そのことに触れたいと思います。

AIが企業を脅かす時代ついに | Bloomberg

この記事、そのまま読んでも何となく文脈が噛み合っていないように感じるのですが、よく読んでみると「AIが盛り上がりすぎて従来企業が倒産しまくっている」という内容の記事ではありません。
逆に「今のところ、チャットボットや、ソフトウエアのコード作成や複雑な質問への回答、写真や動画の生成が可能な「エージェント」と呼ばれるAIの普及が原因で破綻した企業はほとんどない」と書いてあります。

読み進めると、テクノロジー関連企業の三社、容易なUI操作でWEBサイトが作れるWIX、写真や画像素材のライセンス販売をしているシャッターストック、デジタル画像処理ソフトの老舗Abobeが株価を30%近く落としている、という内容から「AIがハイテク分野の代替を始めたからテクノロジー企業が苦戦を強いられている」と言いたいようです。

しかし、この記事の文章のおかしさの原因は、これらの株価下落に喘いでいる三社が「AIによる経済活動の代替」との因果関係を説明していないことにあります。
順を追ってみると、WIXのようなサービスが行うWEBコーディングは、生成AIがあればあっさり作れてしまいますし、WIXのようなノンコードのサイト作成と同様のサービスは我が国にもあります。
生成AIで無限にフェイクサイトが作れる時代に、サイトのテンプレート加工を促すサービスが脅威に晒されるのは当たり前のことで、競合他社が乱立する業界なら将来性が危ぶまれるのも納得できます。

画像素材を提供するシャッターストックですが、近年Windowsですら標準搭載されている画像生成AIを通せば、画像素材にライセンス料を払わなくても無料で使えます。
しかし、画像生成AIは「LAION-5B」という児童ポルノも犯罪写真も著作権のある芸術作品も一絡げにぶち込んだ58億トークンのデータベースを元に出力されているもので、存在そのものが「合法的」かは未だに議論があります。

Adobeのフォトストックもそうですが、こういう投稿型の共有サービスはAI生成画像も大量に含んでおり、そもそもコンテンツ素材のライセンス販売サービスは投稿者にロイヤリティを還元するものですから、画像生成AIを使用した全く素人のユーザーがロイヤリティ収入目当てに大量投稿します。
しかし、画像生成AIは誰でも無料同然で素材が作れてしまうので、わざわざ共有サービスに課金して素材のライセンス料を支払う必要性が相対的に薄れます。

ただ、先に述べたように画像生成AIの非合法性は徐々に認知が広まりつつあり、企業が自信を持って世に出せるコンテンツでは既になくなっています。
記事本文に「コカコーラ社がCMに生成AIを使っている」という例が示されてますが、著作権の文化的世紀末と化した我が国でさえ、生成AIを使ったプロモーションは炎上しています。
ホワイト企業としては「弊社は権利尊重を第一とし、生成作品は受け付けておりません」とキッパリ言えば立場を守れるのでしょうが、こういった投稿共有サービスは生成作品の投稿を推奨していたりします。

そしてAdobeですが、言わずもがなデジタル画像処理ソフトの老舗であり、現役のイラストレーターやクリエイターにとっては主力のアプリを提供しています。
しかし、近年は権利関係で言えば完全に黒に近い画像生成AIをソフトに実装し、それだけでなくサブスクを高額化したことでユーザーから大顰蹙を買っています。
上記にあるように、画像生成AIのデータベース自体が58億枚と呼ばれる無許諾の著作物が蓄積されただけのプールであり、その中には個人の肖像や児童ポルノ(SCAM)、リアル犯罪写真も大量に混じっています。

これほど問題を内在する機能をクリエイター向けに実装しながら、実はアプリを長年使ってきたクリエイター自身の作品も生成AIのデータベースに利用されている可能性が極めて高く、挙げ句の果てにサブスクも高額化したらユーザーに愛想を尽かされるのは当然です。
記事では「Photoshopを使うようなクリエイターがAIに代替されているからだ」と言いたげですが、実は生成AIを批判しクリエイターの保護と文化の発展への寄与を表明したProcreateと、日本のデジタル作画環境の柱となっているCELCYSは順調に株価も利益も伸ばしています。

冒頭に「AIで潰れた企業はない」と書いていますが、実は生成AIの登場でクリエイターの商業活動が業界的に苦しくなったのは確かです。
ただ、クリエイティブ業界がAIによって致命的な代替が行われている事実はありません。
むしろ、消費者がプロの作ったコンテンツではなく第三者による権利面に配慮しないAI生成物を享受し始めたことへの倫理的配慮のなさや悪用の方が、クリエイターの絶望感に繋がっています。

自分たちが努力して積み上げたコンテンツが生成AIを通しただけで著作権フリーとなり、クリエイターの作品データを無許諾で生成AIに投入して作成した「LoRA」というAIモデルは、クリエイターや演者の作風を再現したものであり、それが大量頒布され第三者が収益を得ている実態があります。
そして、LoRAに対し拒否を表明している作者本人になりすまして第三者が商売をしたり、クリエイター本人に送りつけて心理的外傷を与えるケースも頻発しています。

これはクリエイターだけの問題ではなく、俳優や声優などの演者、それだけでなくネット上にある一般人の自撮りなども収集され、ディープフェイクや詐欺に悪用されるケースが続発しています。
生成AIは権利以外の面でも、犯罪を助長する目的に広く使われているのが現状です。

話を戻すと、これら三社の株価下落は「AIによるテクノロジーの代替」というよりは生成AIをサービスに取り込んだゆえの失敗と生成AIサービスとの競合によってもたらされたと考える方が自然であり、この記事はその裏側と紐付けられていません。
また、後半の「ガードナーの収益低下」について、ガードナーは経済トレンドの分析を担う企業であり、NFTやメタバースの凋落と生成AIのハイプ(誇大宣伝)と行き詰まりも以前から予見していて、AIを推進する側からすると叩いておきたい相手でもあるのでしょう。

Bloombergは政府の提灯記事ばかり出す新聞社ですから、AI推進に全面的に舵を切っているトランプ政権に矛盾する記事を出すわけにはいきません。
本文の一番最後に教育系サービスを展開する「デュオリンゴ」が好調である旨が述べられていますが、高度な情報分析を得意としながら数式計算もアルファベットの綴りもわからなくなるLLM型の生成AIが、医療や教育分野での確実性が早くから疑問視されており、教育分野でのAI活用は限定的というのが実情です。
ゆえに、教育系サービスが限定的に生成AIを活用しながら、マンパワーの分野で成績を上げるというのは今の趨勢に矛盾しません。

だから最初から最後までこの記事が何となく奥歯にものが挟まった言い方なのは、「生成AIは正直全く脅威ではないけど、米国を支える株式バブルを煽るために恐怖に訴えてでもテック業界への援護射撃がしたい」という気持ちの現れなのだと思います。

今日のBloombergの記事もツッコミ所満載だったので面白く読ませて頂いたのですが、せっかくなので「本当にAIの時代は来るのか」について書いてみたいと思います。

上でも言及しているのですが、生成AIの根本的な問題はハルシネーション(幻覚の発症による錯乱)や熱暴走だけでなく、データベース上の権利的問題もあります。
そもそも、生成AIは世界中のインターネット網にある情報を権利関係なくBOTによって収集して、その蓄積データを「Google検索がサイトを探す」ような形で素材となる学習データを再構成します。
冷静にシステムとして見れば単なるデータのコラージュをしているに過ぎず、どこにも自意識が芽生える要素がないように思えます。

子供ですら、「1たす1は2」という概念法則を一度理解してしまえば、3685+874も時間をかければ正確に解けます。
しかし、AIは方程式をしっかりフレームで確立する必要があり、たまに間違うことも大目に見た上で、間違っていたら確認してフィードバックを返さなければなりません。
そのデータベースも、「最適解の多数決」によって出力するので本質的には衆愚政治に近く、哲人政治が人徳と真理に近い概念を用いて指揮するのとは違います。

しかし、実際にChatGPTなどでうまくプロンプトを打てば、たまにはプロのお笑い芸人より面白いことの一つや二つは言ってくれます。
この部分だけを拾えば、「生成AIの方が人間より高度なものを生み出せる」と言えなくもありません。
ただお笑い芸人は10のうち7くらい面白いことを言わなければ食べていけないでしょうが、生成AIに面白いことを言わせようとして、その試行回数と成功の比率をお笑い芸人と比べてみて、10回試行させたら7回は笑える出力結果を出すようでなくてはなりません。

けれども、往々にしてベンチマーク50%水準の生成AIが70%成功するのを当てにするのもおかしな話です。
生成AIという技術はかなり粗雑で、権利面だけでなく性能の面でも及第点とは言いにくいですが、経済効率もあまり良くありません。
生成AIは試行のたびに膨大な処理を行うため、かなりの電力を消費します。
Microsoftは、生成AIがデータセンターで使う電力供給のために、かつて放射能漏れ事故を巻き起こしたスリーマイル原発の再稼働に全面協力しています。
一応付記しておきますが、スリーマイル原発は未だに通常稼働しており、廃炉になったわけではありません。

生成AIを走らせるためのデータセンターは膨大なエネルギーを使うため、装置の発熱が凄まじく冷却に大量の水と電力を使います。
だから、データセンター周りの水資源の枯渇や汚染など、自然環境への悪影響はぼちぼち出始めています。
これだけエネルギー効率も経済効率も悪い上、権利面や安全面でもリスクが高く、しかも産業としてトントンの収益か赤字にしかなっていないのが生成AI分野なのです。

しかしEV然り、政府が大量に補助金を出すような国家事業は、産業としては赤字でも政府が資金を注入するうちはバブリーな分野となってしまいます。
イーロン・マスク率いるテスラも、米国や中国の行政支援なしに業績を上げることはできず、企業として万年赤字体質でも潰れないのは、各国の政府や軍が血税で彼らの延命をしているからです。

マスクは現在、買収したTwitterを生成AIの巨大な実験場にしてしまいましたが、彼のAIへの熱量は凄まじいようです。
今なお続くマグニフィセント7を中核とする第二次ハイテクバブルは、別名「AIバブル」とも呼ばれます。
しかし、実は2022年に一旦「AIバブル」は弾けていて、ビッグテックの株価が一斉に落ち込んだほぼ1年後に、OpenAIが「ChatGPT」をリリースして表向きに今回のバブルが始まったことになっています。

2022年のAIバブル崩壊時には、自動車の自律走行技術に対する失望感と、EV市場の翳りもありました。
AppleもMicrosoftもAlphabetも、マイナーアップデートの製品をドヤ顔で出すパターンに投資家もウンザリしていた時期でした。
その頃、OpenAIの開発や企業幹部からは倫理面や安全性に問題があると提起されていながら、その首脳陣をクビにして無理矢理GPTをリリースしたのが当CEOのサム・アルトマンです。

タイミング的に、外国からの投資がなければ終わるアメリカの危機的な金融業界が、10年来維持してきたバブルの息を吹き返させ、全世界から投資を呼び込むのに「生成AI」は多少荒削りだが金融商品には売ってつけだったのでしょう。
その流れは今も続き、産業分野としては赤字傾向でも「AI革命」の名の下に「来年になればAGIが完成し、世界は変わる」と喧伝し続けても一応は希望の眼差しを集めることができます。
しかし、AI研究の学術分野で生成AIの開発フレームからAGIが派生する可能性はほぼないとされ、しかもAGIは基礎研究分野で未だ実証されてはいないのです。

だから私は、生成AIの実態は近いうちにNVIDIAの粉飾決算もろとも白日の元に晒され、廃墟化する分野だと確信しているのですが、AGIに関しては未知数が大きすぎて何とも言えません。

「もうすぐ実現する」と言っても、100年前から期待されているような立体映像も空飛ぶ車もまだまだですし、私の子供の頃は「もうすぐリニアが走り回るだろう」と言われていましたが、政治的ゴタゴタのせいで 21世紀が四半世紀を過ぎてもあと10年は無理そうです。
理論は出来ても、実証化して製品化するまでどれくらい掛かるのかは誰にもわかりません。
AGIという空想上の技術革新が起こればAI革命はないとは言い切れませんが、そもそも「意識」というのは理論化できるものなのでしょうか。

一応付け加えておくと、「生成AI」と「AI」は似て非なる技術で、生成AIは検索エンジンとシステムが似ていますが、AIが本来の自律思考を目指すタイプの技術です。
通常のAIに関しては、先進国は人手不足で代替技術の需要は高いですし、一般的に技術革新がこのまま進みAIによる労働力の代替は進むと考えられています。
ただ、「AIロボットが労働者を代替する」という議論にも、私は疑問があります。

我が国でも少子高齢化の煽りを受け、これほど人材不足が叫ばれ外国人労働者として移民を推進しているのに、AIロボットの普及をあまり見かけません。
かつて窓口に置かれていた「ペッパー君」は姿を消し、今では地方の倉庫に大量に眠っていると言いますが、今こそペッパー君を再稼働させて低価格帯で業務対応させれば良いと思います。

なぜそれができないかに、AIロボットが人間の労働力を代替し得ない理由があります。

ペッパー君が再度市場に投入できないのは、電子制御環境が古いソフトウェアのため動かせないのもあるのでしょうが、それはペッパー君を保有する企業が無理に機体を引っ張り出しても利益にならないと踏んでいるからでしょう。
AIロボットは戦闘機並みの精密機器の集まりですから、部品一つ破損しても修理には専門技術や産業インフラが必要で、その維持にも高いコストがかかります。
20世紀末に登場したロボット犬の「AIBO」も、故障部品の代替を行うにも古い部品を再生産することが技術的に不可能なため、廃番のAIBOは修理するのも困難だと言います。

つまり、AIロボットが高度になればなるほど、製造元の企業は修理環境を維持しなくてはならず、その供給体制には莫大なコストがかかります。
しかも、サプライチェーンが何らかのアクシデントや社会情勢などで遮断されれば、供給網に致命的な影響を受ける可能性があります。
近年の不確実性の高い国際状況、各国の経済的混乱を背景に、複雑な機構を持つAIロボットを維持管理する方法はかなり限られてきます。

ゆえに、私はペッパー君の製造コストが何十分の一に下がり、二足歩行どころか料理までこなすようになっても、そのサービスの維持に現実的ではないほどのコストがかかるため、結局は人間を安い賃金でこき使った方が合理的という結論に達すると思います。
しかも、仮にヒューマノイドが人間の雑務全般をこなして社会全体の労働負荷を減らすにしても、結果的に社会全体のGDPを押し下げることになるはずです。

まずヒューマノイドの製造と管理運営にかかる労働生産性は、提供企業が担うことになります。
その結果、ヒューマノイドが行った生産価値は企業に転嫁される形となり、労働者はヒューマノイドが差し引くGDPの分だけ生産性を向上させる必要があり、自分たちの労働単価を上げつつ還元させながら、ヒューマノイド提供企業に対して税金のようにリース代を払い続けなければなりません。

この構造を解決するには、国家が公益事業としてヒューマノイドを生産、維持管理を全面的に担いサプライチェーンを国内に整備し、どこでも均等に無償配備していくべきでしょう。
しかし、庁舎のプロジェクトマッピングですら何十%も中抜きされる公共事業において、その社会インフラが公平であり続ける保証はどこにもありません。
おそらく、監督官庁がずさんな運営を黙認しながら、製品レベルで中抜きによる劣化が進み、国家負担が増大して維持が不可能になるのではないでしょうか。

そもそも、「人間が遊んで暮らして、AIロボットだけが働く世界」というのは可能なのでしょうか。

よく近未来は「ベーシックインカム」で誰もが無収入で暮らせるようになる、という話を聞きますが、経済学ではベーシックインカムの理論は未だ学術的に確立されていません。
早い話がベーシックインカムとは、別の説明の仕方をした「共産主義」のようにしか思えないのですが、仮にそれで最低限の生活ができるとしましょう。

ヒューマノイドが農業や工業生産を実施するのですから、誰かが監督しなければなりません。
そうでなくてもヒューマノイドは精密機械ですから、細かいメンテナンスや修理が必要になります。
その保守や監督はAIが全てできれば良いのですが、部品のライン生産も滞りなく行われ、しっかり末端まで流通し続けなければ、すぐに動かない機体だらけになります。

それを監視する人間がどうしても必要になるということは、ヒューマノイドを統括する人間が遊んで暮らしている人間を支配するのと同じ構図になるのです。
「その管理者はしっかりした良い人だから安心だ」と言ったところで、自分たち以外に遊んで暮らしている人間しかいない社会で、きちんと働いている自分たちを差し置いて、遊んで暮らしている彼らの意見に耳を傾ける必要がどこにあるのでしょうか。

私は、この図式は0.1%の超富裕層が50%の中間層以下の総資産を上回る格差社会の現代以上に、歪な社会を作り出すのではないかと思います。

そもそも、寝ててもロボットが口にステーキを運んでくれるような世界において、その人間という存在は一体何様なのでしょうか。
その世界において人間が「奉仕される一方の神様」であるとしたら、地上はきちんと労働し社会基盤を支えるロボットたちが「人間」の立場となり、地上の主役は果たしてどちらなのか、それは一目瞭然です。

今はシンギュラリティだなんだとAIが恐ろしいという風潮がありますが、本当に恐ろしいのは従順なAIが地上を支配した先の世界です。
学びもせず努力もせず、フラフラ遊んでいるだけの人類を見て、果たして知能を持ったAIに存在価値を疑問視される瞬間がないと言い切れるのでしょうか。
だから私は、AIロボットが完全に人間の労働力を代替する日というのは、人類の終焉に直結すると思います。

私はAIが主役になる時代は何百年先か人類消滅までないと思っていて、その論拠はAIが人間を本質的に代替したら人間の存在価値そのものが消え去るからです。
だから、現実的にはAIの部分利用とか制限付きの利用に収まっていくと考えていて、それは今のアームロボットが行っているような、機能特化型のAIロボットが正確に単純作業をこなすのが最適解になっていくと思います。

ぶっちゃけ、それ以外に人間の労働者とAIロボットが持続可能的に共存するビジョンはあるのでしょうか。
下手に高性能であればむしろコストが上昇し、部品製造企業が一社潰れるだけで供給網が途絶えます。
残念ながら、人間を倫理面での限界までこき使った方が合理的なのが経済というものです。
人間の代わりにヒューマノイドを使うくらいなら、ヒューマノイドの代わりに人間を使った方がいい、という結論に結局のところ辿り着くと思います。
だから、今のAIブームも落とし所は一つしかないような気がします。

私はAI自体を否定したいわけではなく、人々がAIに幻想を抱きすぎていることを指摘したいだけで、私自身はAIにあまり忌避感はありませんし、むしろドラクエの戦闘システムから馴染んできた世代です。
生成AIに関しては、産業基盤がアンモラルだから評価していないだけであり、AIを普及する側に人間としてのモラルや合理性が欠けていることが問題だと思います。
銃器を簡単に保持してはならず、核開発が国際問題になるのは「持たせると危険」な人々がいるからです。

今のAI技術はそうなりつつあるというか、もう既になっています。
人々は異口同音に「これからはAIの時代になる」と言いますが、生成AIの画期的利用について未だ思い至らず、その権利面や社会上の問題には見て見ぬふりをします。
「それは問題がある」と言いながら、次々と発生する悪用を止める術を誰も思いつきません。

だから私は、昨今のAIブームは些か冷ややかな眼差しを向けているのです。